ホスピタリティ弁護士の長屋です。
今回は、訴訟能力について少しだけ。
相手を訴えようとしたとき、訴える相手(もしくは、訴えた相手)が認知症などで訴訟できる状態になかった場合、あなたはどうしますか。
有効に訴訟行為しこれを受領する能力を訴訟能力といいます。
ちなみに訴訟能力とは法律知識の有無をいうのではありません。
認知症などを患っている者には訴訟能力がなく、同人を相手に訴訟することはできません。
相手と紛争が生じても、話し合いはもちろん訴訟で解決することもできなくなってしまうのです。
それでは困ります。
このような場合に何かいい方法はないのでしょうか。
まず、相手の家族に成年後見人選任の手続きをしてもらい後見人を付けてもらう方法です。
訴訟中であっても訴訟が中断し、選任された後見人が訴訟を受け継ぎます(民訴法124条1項3号)。
ただし、この方法は、相手の家族が成年後見人選任の手続きをしてくれるかは分かりませんし、そもそも相手の家族に成年後見人選任の手続きをするよう促すことができないことも多いでしょう。
その場合はどうすればいいでしょうか。
民事訴訟法35条は「法定代理人がない場合又は法定代理人が代理権を行うことができない場合において、未成年者又は成年被後見人に対し訴訟行為をしようとする者は、遅滞のため損害を受けるおそれがあることを疎明して、受訴裁判所の裁判長に特別代理人の選任を申し立てることができる」と規定しています。
この点、未だ成年被後見人でない者は本条に該当せず、成年後見人選任の申立てがなされるべきとも考えられますが、裁判例や学説では、意思能力を欠く常況にありながら後見開始の審判がなされていない者にも本条は該当するとされています(東京高決昭62.12.8、伊藤p111)。
したがって、相手が成年後見人選任の手続きをしてくれない場合、特別代理人の選任を申立て、選任された特別代理人を相手にして、訴訟を進めていくことになります。
ただし、特別代理人の選任には「遅滞のために損害を受けるおそれがあることを疎明して」という要件が必要であるため、成年後見人選任の手続きを経ていては損害を受けるおそれがある場合に限ると解されています。
特別代理人の選任を申立てる場合は、訴えているなら受訴裁判所、訴える前ならその事件を管轄する裁判所の裁判長宛てに申立てを行います。
特別代理人の選任は裁判長の裁量に委ねられています。
また、手数料や報酬などを支払わなければならないため、申立人は一定の予納金を納めなければなりません。
特に相手が高齢者である場合、相手が当然に訴訟できる状態にあるとは限らないことを覚えておく方がいいかもしれません。